ネタバレ部屋

映画のネタバレと者の拙い感想文です。

マンチェスター・バイ・ザ・シー 原題: Manchester by the Sea(2016) ネタバレ

 

 

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脚本と主演男優でオスカーを獲得。

むかし、NANAという漫画で主役の奈々ちゃんが帰郷するくだりで、「ひとりで帰るにはここは思い出が多すぎる。」と言う場面があった。

まさにそんな感じの心象をどシビアにした映画。

 

突然兄を失ったリーは、遺言で甥のパトリックの後見人に指名されていたことを知る。

戸惑いながらも故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーで兄の遺言を遂行し甥の面倒を見るリー。しかし、本当の困難は、故郷で起きた忘れられない悲劇と再びむき合うことであった・・・。

 

 

以下、全編ネタバレ

 

【前半】

アメリカ、ボストン。アパートの専属便利屋として住み込みで働いているリー。

腕は良いが不愛想な対応のせいでクレームばかり受けている。親しい者はいなく、仕事後にはバーでひとりで飲み、誰の誘いも受けない。無骨で短気な彼はたびたび喧嘩を起こし、破滅的で無気力な毎日を過ごしていた。

 

冬のある日、故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーの病院から電話を受ける。

漁師を営む兄のジョーが仕事中に倒れ、危篤だという。すぐに仕事の代理を頼み、故郷へ車を走らせるリー。

兄のジョーには心臓の持病があった。徐々に心臓の機能が弱っていくうっ血性心不全という病気。数年前、発作を起こし入院した際、5~10年の余命を宣告されていた。

 

病院に到着したリー。兄は1時間前に他界していた。

漁師仲間のジョージの目の前で倒れ、病院に運ばれたが意識を取り戻すことなく亡くなったらしい。狼狽するジョージとは対照的に、静かに悲しみを押し殺すように医者の話を聞くリー。

霊安室に通されたリーは冷たくなった兄をそっと抱きしめる。

遺品をジョージに任せたリーは、兄の息子パトリックを迎えに行くと病院を後にする。

 

パトリックを迎えに行く道中、懐かしい故郷の風景に過去の記憶が呼び起こされる。

かつてリーは、この地に住み、子供3人と言葉使いは汚いが美しく気丈な妻と幸せに暮らしていた。休みの日には兄親子と釣りに出かけ、人並みの幸せを手にしていた。

 

現在16歳になったパトリックは、高校でホッケー部に入り人気者になっていた。

ホッケー場に迎えに来たリーの姿を見たパトリックは、父の死を悟る。

リーに送られ病院で父の亡骸に会うが、一瞬で退室してしまうパトリック。

家に帰ると、パトリックは彼女と友人たちを家に招き、いつもと変わらぬように会話を楽しむ。その夜、パトリックは離婚して家を出ていった行方知らずの母に父の死をメールするのであった。

 

翌日、兄の遺言を開示するために弁護士のもとを訪れるリーとパトリック。

リーはそこでパトリックの後見人に指名されていることを初めて知る。さらに、引っ越し費用や養育費も用意されており、パトリックの面倒を見てほしいことを告げられる。そのことを聞き、リーの脳裏には"ある日″のことが浮かんでいた。

 

その日、リーは友人たちを自宅に招き、酒とドラッグで深夜まで騒いでいた。

リーの妻は、子供たちが寝ているから早く帰らせろと怒鳴り、集いはお開きになる。

軒先でみんなを見送った後、酒とドラッグで目が冴えてしまったリーは、徒歩20分のところにあるコンビニにビールを買い足しに来た。

帰路、自宅の方が何やら騒がしい。サイレンが鳴り響き人だかりができている。

 

自宅は炎に包まれていた。目の前には「中に子供たちがいるの!」と泣き叫ぶ妻。

どうすることもなく立ちすくむリー。

 

明け方、鎮火した自宅から運び出される小さな3つの遺体袋。その様子を見てリーは泣き崩れる。

 

警察で事情聴取を受けるリー。消防捜査官に起こったことをすべて話してくれと言われる。

リーは仲間たちとの集いあと、コンビに行く前に眠る子供たちの様子を見に行った。部屋が冷えていたため暖炉に火を着けることにした。エアコンは乾燥すると妻に止められていたためだ。コンビニへの道中、リーはスクリーン(薪が外に出るのを防ぐ衝立)を立てるのを忘れたことに気付いたが、大丈夫だと高を括って引き返さなかった。

捜査官はそれを聞いて、「スクリーンを立て忘れることは犯罪ではない。誰もがし得るミスだ。結果は甚大だが、スクリーンの立て忘れで起訴されることはないだろう。帰っていい。」と言う。

自身の過失から起きた事態であるのにお咎めがないことにひどく戸惑うリー。取調室出たリーは、警官から銃を奪い自分の頭に銃口を当て自殺をはかるが、取り押さえられてしまう。

 

沈黙するリーに弁護士は、「君の経験は想像を絶する。後見人になりたくないなら断っても良い。」と言う。

 

リーは、後見人になることに決めた。

遺産はすべてパトリックに相続されるが、成人するまではリーが管財人となる。先ず、リーは相続された船をどうするか考えていた。モーターが壊れたまま所有すると維持費がかかり過ぎるため売り払おうと言うが、パトリックは頑なに拒否する。

次に、兄が指定した葬儀社に赴くが、土が凍っているので春まで埋葬できないと聞かされる。遺体はそれまで冷凍庫で保存すると言われ、パトリックはあからさまに嫌悪し、リーと言い合いになる。

 

バンド活動もしているパトリックは、ボーカルの女の子とも付き合っていた。二股である。先ほどの言い合いにも関わらず、女の子の自宅へ嫌な顔せず送迎をするリー。女の子の母がリーを誘おうとするが、リーは微塵も興味を示さない。

 

ある晩、元妻から連絡を受けるリー。兄の訃報を聞いてお悔やみの電話をしたと言う。葬儀の参列を願う元妻を快く受け入れる。元妻は続けて言う。現在新しいパートナーと暮らしており、妊娠をしていると。

 


【後半】

兄の葬儀で元妻と再会するリー。身重の元妻は現在のパートナーと参列し、新しい生活を平穏に送っているようだった。

葬儀中、教会で静まり返る中、パトリックの携帯電話のバイブレーションが鳴る。それを気にするリー。

兄の葬儀の後、家に彼女を呼びたいとパトリックは言う。兄の死後、これまでふさぎ込む様子もなく平常通り毎日を過ごすパトリックに若干の違和感と不満があったリーは彼女を呼ぶことを拒む。

 

就寝前、リーはボストンへパトリックと一緒に引っ越す予定であることを伝える。パトリックは生活のすべてがここにあるため故郷を離れる気はなく、大した生活のないリーがここに移り住めばいいと一蹴する。リーは言い返すこともなく、静かに今日はもう寝ようと言う。

階下に降りて冷蔵庫で夜食を探すパトリックは、冷凍庫に詰め込まれた冷凍肉を誤って床にぶちまけてしまう。冷凍肉が父の冷凍保存を連想させパニック発作を起こしてしまう。そぶりを見せなくとも肉親の死はパトリックを確実に蝕んでいた。

落ち着くまでパトリックを見守るリーは、かつてこの土地を離れた日のことを思い返していた。

 

翌日、ボストンの自宅に荷物を取りに一旦戻ったリー。失った3人の子供の写真を大切に包み、兄の家にもどったあともベッドの脇に丁寧に写真立てを並べる。

荷ほどきの最中、窓から兄とよく過ごした港を眺める。衝動的に窓を殴り割って手を切ってしまう。手当てをしているとき、固定電話が鳴る。パトリックの母からであった。リーは、無言でその電話を切ってしまう。パトリックの母は、兄の病気が発覚してから酒に溺れ堕落したことが原因で離婚していた。

帰宅したパトリックは、母からの電話を切ってしまったことに腹を立て、リーを激しく罵る。

 

パトリックの母は、現在新しいパートナーと平穏な暮らしを送っていた。

ある日、パトリックは母の現在の家を訪れてランチをすることになる。パトリックは、母と一緒に暮らすことをわずかながら期待していた。

母のパートナーは敬虔なキリスト教の信者で、そのことにパトリックはいささかの違和感を覚える。そして、3人で食事をしているとき、母は急に狼狽しはじめて離席してしまう。

リーに送られる帰路、うまくいきそうにない事にショックを受け、リーの何気ない言葉に腹を立てるパトリック。

 

その晩、母のパートナーからパトリックへメールが届いた。内容は、訪問は嬉しかったが母を求めるには早すぎる、という断りのものだった。

居間でくつろぐパトリックとリー。リーはパトリックの沈んだ様子を見てうまくいかなかった事を汲み取る。そして、リーはある提案をする。兄の遺品の銃を売れば、船のモーターが買える、と。

 

新しいモーターに替え、復活した船。クルージングを楽しむパトリックの姿を見て、これまで見せたことのなかった笑みをこぼすリー。これを契機に、パトリックとリーの関係は良くなっていった。

 

パトリックが自宅デートをしている間、邪魔をしないように港の周辺を散歩するリーは、ばったり元妻と会う。身ごもっていた子供は生まれており、ベビーカーを押しながら友人と歩いている。元妻は少しだけ話したいと言い、友人に外してもらいリーと2人きりになる。

子供をあやすリーの姿を見た元妻は、かつての子供たちとの交流がフラッシュバックし、これまでせき止めていた思いが溢れてきてしまう。

「あのとき、私は地獄に落ちるほど貴方に酷い言葉を浴びせてしまった。私の心は壊れてしまったの。リー、あなたの心も壊れてしまった。赦してほしい。今も貴方を愛している。」

リーは、涙目になりながらも、「俺は大丈夫だ。幸せに暮らしてくれ。」と言い、元妻の言葉をさえぎるように足早にその場を後にする。

 

バーに寄ったリーは、喧嘩を吹っかけて客と殴り合いになる。偶然居合わせたジョージに止められ、ジョージの自宅で手当てを受ける。リーは、感情が高まりジョージの奥さんの腕の中で泣き出してしまう。

 

翌日、リーはある決断をし、ジョージの家を訪れる。

 

ある晩、リーはパトリックに話す。

リーは7月になるまでこの地でパトリックと過ごし、その後ボストンへ戻る。そして、パトリックはジョージ夫妻のもとで生活をする。ジョージ夫妻に兄が残した遺産の一切を託し、パトリックはジョージの養子になるのだ。

パトリックはリーに僕を捨てるのか?と困惑するが、リーは静かに言う。

「乗り越えられないんだ。」

初めてリーが弱さを見せた瞬間であった。

 

春。

雪も溶け、兄の埋葬も無事に終わった。

その帰り道、リーはまだ7月から暮らす家が見つかっていないことを漏らす。新しい部屋には予備の部屋が欲しいと言うリーにパトリックはその理由を聞くと、

「お前が遊びに来るから。」

 

兄の船で仲良く釣りをするリーとパトリック。この町にも夏が近づいてきている。

で、幕引き。

 

 

 

 

感想

最高だった。何から何まで。今年一番の映画だ。間違いなくマスターピース

 

映像がとても鮮明であった。旅行誌の広告くらい。

ムーンライトとは真逆の、人物の心理フィルターを通さない映像作り。小細工なしに現実そのままを映し出している。

近親者の死が人物の心理に影響し見える景色がいつもと違わせていても、それは単なる主観であって、現実はいつもと変わらずに時が進むだけである。

自分の時間が止まってしまっていても、世界は非情にも回り続けるのだ。

 

俳優陣の演技が本当に素晴らしかった。演技というかその者になっている。なり切っているんじゃなくて、なっている。

わかりやすいジェスチャーやセリフの抑揚はほとんどない。いまこの人物が何を思っているのか、表情や言葉から明確に読み取れるようには演出されていない。まさに実生活の人間関係。人間を描くことにおいて、この監督は徹底しているし、ぐうの音も出ないほど説得力がある。

 

主演男優のケイシー・アフレックは、普段のインタビューやトークショーで見る限りユーモア溢れるシュールな男だ。イメージ的にはピースの又吉と重なる。(笑)

しかし、この現場では一切のジョークや明るい会話もなかったという。憑依型の俳優なんだね。

子供3人を失い分に罰を与えるかのように感情を殺して生きるリーの眼は、"ケイシー・アフレックのそれ"ではなかった。過酷な役作りを想像させる。

 

元妻ランディ役のミシェル・ウィリアムズは、短い出演時間ながら強烈なパンチ力で観る者の心に深手を負わす。(ミシェルは実生活でかつてのパートナー(娘の父)であるヒース・レジャーを失っている。)

終盤のランディの感情のダムが決壊するシーンはこの映画のテーマのひとつを炙り出す。死を乗り越えるために新しいものを手にしても、一度損傷した心の脊髄は戻らない。そこらの映画のように現実はシンプルなハッピーエンドを迎えられないのだ。

 

月並みな感想を言うと、考えさせられる映画だ。本当に観てからずっといろいろな考えが頭を巡っている。もう一度観よう。